
三方原台地。この土地は静岡県西部地域に広がる洪積台地であり、ここに広がる“三方原の赤土”はその性質上、ジャガイモなどの野菜がおいしく育つ特産地域です。
そんな三方原のジャガイモですが、かつては出荷規格に合わず捨てられてしまうものも少なくありませんでした。
そんな“もったいない”ジャガイモを有効利用しようと、商品化されたのが「三方原ポテチ」。毎年、ジャガイモの獲れ高に応じて数量限定で発売されるその商品は、口コミでじわじわと広がり、この“ポテチ”シリーズは、ご当地のポテトチップスとして長らく愛されてきました。
この“ポテチ”はどんな想いで、どんな工夫で作られているんだろう?
現在、商品を販売している「株式会社ローカルテイスト」の新村 憩さんと、加工をしている松浦食品工場の松浦さんにお話を聞くことができました。
“三方原ポテチ”のジャガイモは、『B級』の男爵芋。B級とは、形や大きさの関係で規格外になったものを指しています。その中でも新村さんが仕入れるのは、B級の中でもA級寄りの、いわゆる選りすぐりのジャガイモ。さらにその仕入れ先は、信頼関係がきちんと醸成されている限られた農家さんだけです。
その選りすぐりのジャガイモを使うと、「焦げのない白いポテトチップスになるんです」と新村さん。「焦げ」がほとんど見られないのは、ジャガイモが厳選されている証なんだそうです。
そもそも、品質が高く長期保管にも向かない「男爵芋」は、一般的にポテトチップスなどの加工用で使われる品種ではありません。そのため、三方原で収穫された男爵芋はすぐに工場に運ばれ、スライスされて揚げられていきます。こうすることで新鮮なジャガイモの美味しさを閉じ込めた味わいになるのです。
だから、この“三方原ポテチ”が食べられるのは、男爵芋の収穫時期である春夏だけなのです。
「三方原ポテチ」は、その原料から、どうしても期間限定、数量限定の商品となってしまいます。旬となる春夏以外でも、ご当地のポテチを楽しんでほしい……。
そんな思いで生まれたのが“のり塩”ポテトチップスです。

ギザギザカット!
やってきたのは榛原郡吉田町。収穫された国産のジャガイモたちがここに集まってくると、まずはゴロゴロと転がりながら水にダイブ!皮をむいていきます。
皮を取り白くなった新鮮なジャガイモたちは、今度はあっという間にスライスされます。その厚さはなんと1.7mm。一般的な厚さだという1.3mmと比べて、ジャガイモの味わいを存分に楽しめる厚さになっているんです。さらに、のりがより付きやすいように一工夫。「のり塩」味はギザギザにカットされていきます。
カット後は、ジャガイモの中のデンプン質を落とした後、いよいよ揚げられていきます。
大きな丸釜、たっぷりの油で、3分と20秒かけてじっくりと揚げていきます。
厚さがある分、これも通常の厚さのものより時間をかけているのだそう。揚げ終わって釜の中のザルが持ち上がり、ざばっと油をきる瞬間は圧巻!香ばしくきつね色に揚がったポテトチップスは食欲をそそります…。

塩・海苔で味付けされて出てきます
仕上げは浜名湖で採れたのりと焼津の海洋深層水を使用した塩で味付け。この「のり」は浜名湖産、そして厚さまできちんと決められているそう。
できたてのポテトチップスを一口かじると、カラリと揚がったサクサクとした食感とともに、口の中にジャガイモ、のり、塩の風味が広がっていきます。
「シンプルな工程だからこそ、素材が大事」と松浦さん。
一つ一つの原料にこだわるからこそ、この味が出来上がるんですね。
最終工程では、人の目で検品してきれいに袋詰めがされていきます。大きな袋に120g、出来上がったばかりのジャガイモをたっぷり詰めて、出来上がりです。
実は、もともとの販売会社は別の団体や会社だったそうです。その経営事情で、何度か販売完全中止の危機にも瀕した“ポテチ”シリーズ。
“愛されてきたこの商品の販売を、どうにか続けられないものか”
そんなとき、ジャガイモを育てる農家さんが頼ったのが、ジャガイモの集荷を担当していた新村さんだったのです。
新村さんにとっても会社にとっても、農業の世界、販売の世界には足を踏み入れたことのない領域。それでも、「農家さんの想い、20年余り愛されてきた商品への想いを繋げたい」
その思いを受け止め、2015年の7月、事業を引き継ぎました。
これから、静岡発のご当地ポテチとしてより多くの人に味わってもらうため、松浦さんとともに、ここにしかない“ポテチ”を作り続けていきます。
大量生産のため、オートメーション化が進み断続的に揚げていく機械を使うメーカーが大半を占める中、松浦食品の釜揚げ製法は1回分揚げて、流して、入れて、揚げて…という、いわゆる「効率の悪い」製法。本来の作り方でありながらもその製法で作り続けているのは、国内でもわずかなのだそうです。この手間のかかる製法をあえてするのは、譲れない「おいしさのため」。松浦さんはそう言います。
美味しさの裏には、発売当初から変わらない信念がありました。
Writer:ほた子