静岡県御前崎市。茶畑が続く道を通り抜けると、空と緑と遠州灘の景色が眼前いっぱいに広がってきます。
そんな自然豊かな場所で独自にしゃもを育てているのが、「鳥工房 かわもり」の河守康博さんです。

もともと好きで鶏を育てていたという河守さんが、
「しゃも」を飼おうと決意したのは2008年ごろのこと。
ブロイラーとは一線を画す「しゃも」という鶏の魅力に惹かれた河守さんは、
「一黒しゃも」の飼育を始めました。
「しゃも」って?
しゃもの漢字表記「軍鶏」の通り、しゃもは元々は闘鶏用の鶏。
戦いのために発達した筋肉は一般に流通するブロイラーと比べ、
弾力のある食感や本来の“うまみ“が味わえる品種です。
国の天然記念物にも認定されており、鶏の在来種ともいわれています。




しゃもの飼育に関して、河守さんのこだわりはピカイチ。
しゃもの餌となる飼料は、鰹節、海草の粉末、玄米、
ハーブなど様々な種類を調合し、さらにぬかの微生物やカルシウムなどを配合。
この完璧なバランス食のおかげで、しゃもの腸内環境が整い、
健康な肉体を作り出します。
また、飼育場所も一般的なブロイラーとは全く異なります。
まず、鶏小屋と言って多くの人が思い浮ぶのは、
小屋にぎゅうぎゅう詰めになってエサをつつくブロイラーの姿ではないでしょうか。
しかし実際に足を運んでみて驚いたのはその飼育環境。
高床式で風通しの良い小屋は、しゃもが自由に歩き回れるほどのスペースがあります。
一つの小屋に入れるしゃもの数は、なんと通常の3分の1ほどなんだそう。
また、高床式で地面から離れているため、
土の中にいる有害な微生物を食べてしまう危険もなく、
またフンも床から地面に落ちるためノンストレス。快適な環境で育てられていました。
更に出荷の時期も他と違います。出荷までの日数は約150日前後と、
通常の鶏の3~4倍ほどかけてじっくり育て、鶏の味を凝縮させます。
スタッフが小屋に近づいて中をのぞいても、特製の餌のおかげで、
一般的に思うようなフンや家畜のにおいはほとんどありません。
自由に走り回るシャモを見て、のびのびと育てられていることが一目でわかりました。
飼料の原料から飼育方法、さらには出荷まで、そこに妥協の文字はありません。
出荷に適した時期になると、旨みを逃がさないため、
冷凍の真空パック加工をほどこします。
飼育から出荷まで、衛生環境には徹底的に配慮しています。
河守さんが目指しているのは、農業と畜産業の循環型農業。地元のものや自分で育てた農作物の一部を飼料として使用し、
それを鶏が食べる。食べた鶏から出たフンは土と混ざり、農産物を育てるうえでの肥料となる。その肥料で農作物が育ち、
それがまた飼料になり……。だから河守さんは、鶏を育てる傍ら、いちじくやサツマイモも育てています。
本来あるべき自然体の形から、おいしい鶏や農産物が育つんですね。



「手抜きをしないことです」そうさらりと言う河守さんですが、
その陰には計り知れない努力がうかがえます。
潜在能力のあるこの鶏をどう育てるのか。飼い方ひとつで、
その能力の引き出され方は大幅に変わります。
河守さんは、しゃもの持つポテンシャルを100%引き出すため、
日夜努力を重ねているのです。
そしてその証は、「一黒しゃも」の浸透性に表れています。
大々的な広告を打ち出すでもなく、その味はプロの料理人の
口コミによって広がり、今では業界紙にも頻繁に出ているような
日本を代表する料理人の方まで、河守さんの元を訪れることが
あるというから驚きです。
「一黒しゃも」では、部位ごとの注文方法はありません。すべての部位を味わってほしいという思いから、
「もも」「むね」「ささみ」の3種を、さらに「オス」「メス」の2種類でお届けします。
それぞれの違いを、それぞれ最大限に味わうことができます。

シンプルに素材の味を楽しみたい方に。プリッとした食感と、噛めば噛むほど口いっぱいに広がるコクと旨み。
これまでの鶏肉のイメージを一新させる、おすすめの調理方法です。たまり醤油はもちろん、煎り酒でも旨みを発揮。
まずは薬味なしで食べてみてください。

通常の鶏肉は火を通すと水っぽくなってしまいがちですが、鳥工房かわもりの遠州地鶏一黒しゃもはドリップが出にくく、煎ったり焼いたりしてもそのようなことはありません。素材を壊すことなく旨みを感じたいなら、塩で頂くことがおすすめ。一口目からガツンとくる旨みに、箸が進むことうけあいです。

鶏独特の臭みがないため、おいしいスープが作り出せます。
そのスープで水炊きにするなど、シンプルに食べるのがおすすめです。
一黒しゃもの由来は、日本固有の「黒しゃも」からきています。掛け合わせの混合種で、
オスは白と黒のまだら模様。メスは黒々としています。引き締まった肉質で、
旨味成分でもあるアミノ酸が多く含まれています。
スタッフが訪れた夏の日中も、元気に小屋を歩き回っていました。
大事に育てられたしゃもの肉は絶品。ぜひそのおいしさを噛みしめてください。