オリジナルブランド牛の産地直送販売を行っている「峯野牧場」。
牧場が肉を直接販売するのは静岡では珍しく、最近プロの料理人からも注目されています。
新東名引佐インターから車で10分。引佐町奥山の静寂な奥深い山の中、おいしい空気と山林から湧き出る天然水、
5,200m2の広い敷地で270頭の牛がのびのびと育っています。
そこには、恵まれた自然環境以外の『峯野牛』の“うまみ”の秘密がありました。
『峯野牛』の生みの親である峯野忍さん。
市場での評価も高く、ファンも多い峯野牧場ですが、そこまでの道のりは決して楽ではありませんでした。
東京農大畜産課を卒業後、病気がちな父親に代わり20代から牧場を切り盛りするなか、狂牛病による価格の下落や借金など、苦労の連続でした。
“人がやらないことをやる”がモットーの峯野さんは、肥育、繁殖を徹底的に勉強。
試行錯誤を繰り返す中、肉牛部門の「しずおか農水産物認証制度」を静岡県内で初めて取得し、市場での価値は徐々に上がっていきました。

『峯野牛』の販売を始めて4年、赤身肉のリクエストが多くなった頃、ある料理人から「もっと味にこだわったら」と言われました。
綺麗な霜降り肉だけが求められているわけではないと気づき、そこから赤身肉で勝負することを決断。
噛んだ時のバランス、程よい霜降りと柔らかさ、冷めても美味しい、本物の味への追求が始まりました。
「とろける肉は松阪でいい。赤身なら絶対負けない」そのこだわりが、お肉の味がしっかりしていて、脂がさらっと溶けて胃にもたれない、『峯野牛』人気を支えています。


「本当にいいと思う牛しか売らない」「霜降りが入りすぎてもダメ」
270頭の中で、1年間で『峯野牛』と認定して出荷されるのは2割弱の50頭前後です。毎週売切れで、ヒレは2か月待ちになることもあります。とにかく食べて欲しいからとギリギリの値段に設定。
直販以外では、浜松市内を中心に、ホテルや料理店で食べることができます。冷凍をすると味に影響するからと、翌日届くところには冷蔵で送るという徹底ぶり。


どうすれば美味しい牛になるのか。
ヒントになった出来事がありました。出荷前に骨折をした牛を食べた時に味がしなかったのです。
ストレスが味に影響を与えると確信し、そこから徹底したストレス軽減策を講じます。国の基準の2倍のスペースを確保し、ゆったり育てる環境をつくり、一つの牛舎には5頭まで。人間の作業性の為だけの鼻かんも止めました。
牛は一度序列が決まれば喧嘩しなくなるので、牛舎間の移動はしない。餌を取り合わないよう、みんなが食べられる工夫。こうした積み重ねが、牛がのびのび育つ環境を作っています。


エサの配合や牧草にも細かい配慮を欠かしません。トウモロコシは厚みと歯応えを考えて、潰し方を変えます。
エサや環境の履歴データを全部取っていますが、その味が分かるのは2年後。
少しずつ前進していくことが大事とのこと。

ブレンド前の履歴が分かる
上質で安心な飼料

潰し方の違い

成長に応じて配給を変えます
現在、峯野牧場では出産用の新牛舎を建設中です。
今までは、生後2か月の子牛を購入し、育て出荷していましたが、
今度は自分たちの牧場で産まれた牛から育てるステージへの挑戦です。
牛の歩数をデータで飛ばし蓄積するIT化を進め、親牛のストレス軽減に向けた新しい取り組みも行います。
試行を重ねた先、10年後の『峯野牛』がどんな味になっているのか、一番楽しみにしているのが峯野さん本人なのです。





「必ず殺されてしまう牛だからこそ、どこの牛かわからないではなく、峯野の牛として喜んで食べてもらいたい」牛への感謝を忘れない事が一番という峯野さん。
今回の取材で、「本当、バカですよね」「ほとんど趣味の世界ですよ」の二言をよく耳にしました。誰もやらない事をやれるのも、本当に牛が好き、育てる事が好きだからだろう、としみじみ感じました。
Writer:ジミーなかざわ